白シャツを恋い慕う

つれづれなるままに…おたく

それは愛の物語なのか、自由を求める物語なのか

初、生の花總シシィ!ついにお会いしてきました。
キャストは以下の通り。

7月10日 花總 井上 田代 古川 剣 山崎 大内

結論から言うと東宝エリザベートが開幕したんだ…。という感じ。
前提として私は蘭乃シシィをありだと思っているのですが、お二人のエリザベートが作り上げる物語は全くの別物。という感じ。
花總さんはやっぱり自分=エリザベートエリザベート=自分だと思いますし、初演とは多分今後だれも並べない。
それにきちんと主演でありタイトルロールである東宝版「エリザベート」を見せてくれました。
蘭ちゃんはそれでも健闘していて自分なりのエリザベート像を作り上げたとは思います。真似ではなく。
役者自身の葛藤も一杯盛り込まれている気がして。そういった意味も込めて面白いエリザベートでした。

花總シシィの物語はとエリザベートが自我に芽生え自分の生きる道を探していき、現世でもがき苦しみながらも最後に生きる場所を手にする物語。
蘭ちゃんシシィの物語はエリザベートがトート閣下に見つけられ、フランツをも通して、エリザベートとトート閣下の愛の物語。
ざっくりとこれぐらい印象が違っていました。私が従来の東宝、従来の宝塚に抱くイメージそれぞれを同じ帝劇でみたというのが正しいのかもしれません。
二人とも2つの要素はちゃんとありますがどちらが色濃く出るかという感じがしました。
あと、娘役出身なだけあって、衣装の愛らしさや美貌は形式美が大好きな人間としてはとても受け入れやすかったです。


序盤から大体感想をメモにしてみたので書き起こしてみます。
粗方エリザベート比較とルドルフ、フランツです。
誰が悪いとかではなく(イケコの悪いところは書くよ(笑))どっちがより好きかということを自己満足にまとめただけです。








・我ら生きたえし者共。
下手2列目にいるヴィンテッシュ(いまっち)と男の人のリフトがとてもきれい。手先まできれいで、惚れ惚れ。
センターのフランツは一際苛まれていて苦しそう。横のルドルフの指先が綺麗で、何人かだけが起き上がるふりも綺麗な弧が見えた。

・ようこそみなさま
ルドビィカがやさしい母親な面だけでなく、世間の注目を!と望んでいる人間らしくてゲスな部分をはまこを使うことでうまく出しているなと初めて思った。
ミュー畑での彼女は乳母だったりまだやさしいイメージがあるのかもしれないが、私は宝塚での数々の悪役を見てきたので、しみついているぐらいに犯人か悪役と疑ってしまう習性がいまだに残っている。(09カラマーゾフの兄弟の父がまだ頭にある)
この場面の意味を特に考えてこなかったけれど、ルドビィカ像が明確になって面白いです。

・愛と死の輪舞曲
芳雄トート閣下が歌詞を通じてゆっくりゆっくり恋に落ちていくのが分かった。城田トートは「その瞳が胸を焦がし眼差しが突き刺さる」ですでに夢中でとらえている印象。トートダンサーの振り付け結構好きです。

・謁見の間
死刑囚の母とフランツ、ゾフィのお芝居が絶妙。
このフランツは若いころはまだ頼りなかったんだな。そんな時もあったな。と思わせてくれる若々しさ。

「息子は自由と叫んだだけ」
「結構ね」
「ご慈悲を。陛下。死刑はやめて」
「もし選べるのなら、寛容で善意の名君と呼ばれたい」
「強く、厳しく、冷静に、冷酷に」
「…却下」

この間フランツだけをみていたらすごく複雑に悩んでいて、青さの残る感じが良かったです。
ふっと思ったのはここで「自由」を完璧に否定され、かつそれを自らの口に出すことで彼が古めかしい皇帝になっていくのだなと。
いつも死刑囚の母に気をとられていて、情勢の説明に重きを置いているだけだと思っていました。

・計画通り~あなたがそばにいれば
ここら辺は蘭ちゃんエリザの天真爛漫な無邪気さが恋しくなりました。
花總さんも勿論ちゃんと演じてらっしゃるのですけども、皇后になるべくてなった感がどうしてもしてしまうというか気品高すぎだなと思ってしまう。
蘭ちゃんはある程度の気品と教養で、本当に間違ったような感じがする。(シナリオを知っているのにリアルタイムで入り込める感覚がある)
フランツ登場の直前が「鹿さん」蘭ちゃん「鹿だわ」花總さんに聞こえたけど正解はなんだろう?二人で違うのかな?

あなたがそばにいればの冒頭の
「幸せになりましょう、二人で~♪」(曖昧)
の途中に入る万里生フランツの「ハハッ」って笑い声がものすごく好きです。

・私だけに
メモがいきなり飛んでいるぐらい素晴らしい私だけにでした。
花總さんの宝塚版エリザベートはDVDで何度も拝見していて(特に98宙)、そのたびに「私だけに」以降は素晴らしいんだよな。と思っているのですが、まるで同じ現象でした。「私だけに」は確かにエリザベートが自我に目覚めるシーン。
思うに花總シシィは王室自体が駄目なわけではないのです。環境がひどすぎただけで。皇后になってその道を行くことも(自分を抑える努力をすれば)できた立場の人間だけれどけれど、私は私であるという確証を得て、こう生きていきたいと主張されている感じ。とにかく歌詞が一番伝わってくる。
特に「ありのままの私は宮殿にはいない。誰にも束縛されず自由に生きるの。たとえ王家に嫁いだ身でも、命だけは預けはしない」
ここあたりがぐわっと胸をつかまれたような気分でした。思わずうるっときました。
導入もほかの人(蘭ちゃん含む)とは違って「ここは嫌です」という主張が真っ向からゾフィとぶつかっていました。割と「いや。無理」っていう幼い対立の仕方をする人が多いように思っています。あと、「私だけに」の中での王室では生きていけないの!という主張が強すぎるのかな?


・闇が広がる
の前の三色旗をきているぞ!の方のエーアン!
シシィを過剰に守りすぎだよフランツ。と思いながら、なぜだか和央さんの顔が浮かんできました。
これは花總マジックその1だと思うんですけれど隣にいる人が自分を「溺愛」しているようにみせる。というあれだと思うのです。自分が直接何をしたわけでないのに、そう見えるので勝手にマジックと呼んでいます。
闇が広がるはトートこわっ。としか思わなくて、ルドルフとの所にきちんと書こうと思っていますが、「闇が広がる」は、どのキーもものにしているこの人の物なんですよね。
宝塚版の「行け、ウィーンへ」の歌い方がすごく好きだったけど、それ以上にここでエリザベートとの関係が深まっていてとても好きです。


・退屈しのぎ
ここあたりで3回連続で見慣れたはずの育ルキーニがやたらいきいきしていることに気が付き始めます。
どうやら調子が良かったこともあるようなのですが、いままではエリザベートたちの話とルキーニ。だったのが、きちんと中に入り込んで語り始めているなと感じました。
エリザベート次第なのは案外この語り部なのかもしれないですね。物語の主人公に切り離されてしまってはどうにも出来ないから。


エリザベートの居室
歌詞は宝塚版と同じ。
「君の優しさで僕を包んでほしい」が重すぎて、心から愛している様子にまたうるっときます。
他のシーンでも同様のことが言えますが蘭ちゃんが結構突っぱねていくのに対し、花總さんはまっすぐ自分の道を歩んでいたら見落としてしまったの。という故意ではないような印象があるので、開けてあげて!!とも言えず。
やはりこのシーンは好きです。
トートをというよりかは、花總シシィからすると死を模した自分が生み出したトートとの戦い。という印象を受けました。
トートが先にシシィを見つけるのは分かっていますが、心の闇的な何かにみえた。ムック本を読むとそのあたりについても、「彼女自身が死を求め、読んでいるというとらえ方で演じていきたい(引用)」と記載されていたので私の考えもあながち間違っていないのかもしれないです。
というか登場人物全てが花總さんありきだったなと感じました。勿論他の人が出来ないとかではなく、この方の持つマジックその2だと思いますが、皆さん個性よりも花總さんの方向に芝居がよる。真ん中に立つ力をきちんと持っている人ならほかの人でも起こるのですが、一応エリザベートにおいてはこの人しかそれは起こせないので、花總マジックその2です(笑)

・私だけに(三重奏)
個人的にフランツの「エリザベート」が聞けてとてもうれしいのと、三重奏である意味が成り立つ3人だなとも思いました。
芳雄トートが脇に見えるのはすごいな…とも思いながらこのパワーバランスをイケコは望んでいたんだろうなとも。東宝ならではですね。


ここから2幕なんですが、大本命ルドルフのことはめちゃくちゃ興奮気味に綺麗。やばい。と書いてあって、残りは「夜のボート」などに少しふれてあるだけという(笑)
思い出しながら書きます。


・私が踊る時
「勝ったのね」のドヤ顔は個人的に蘭ちゃんが好きかもしれない。
人間臭い人がプリンセスを演じる葛藤とか役者自身のものも投影されているのが、個人的には共感しやすい。
ただ、こんなに素敵なハーモニーも好き!
花總さんのパワーというか「踊る」という一言にすべてを閉じ込められている気がして、のちの「まだあなたとは踊らない」がすごく刺さりました。
好きとか嫌いとか愛でもなく、ただ自分が生きる道を求めて生きる。花總さんにしかできないエリザベートだと思います。


・ママ何処なの
大内くん2回目。可愛らしいジャニーズにいそうなお顔が京本ルドルフになりそう。
子ルド的には松井くんのボーイソプラノが失われる前にもう一度お会いしたいです。
とにかく芳雄トートの表情が滅茶苦茶怖い。まあまあ見ている城田トートと違って、「妄執」とでもいうのかな執着心がすごい。
だからルドルフ関連を見るときに入り込めるのは芳雄トートなんです。自分が演じてたことでかなりルドルフに対するアプローチが違うと思う。


・魂の自由
すごい音階の「狂ってしまいそう」が綺麗でした。
今までこの順番だと、シシィがヴィンテッシュにかわりたいほどに自由を求めていないような気がしたんですけれど、今回は納得。

・パパみたいに(リプライズ
どうして花總シシィがこの人になりたいのかあんまり分からなくて、自我を追い求めるパワーがすごすぎてお父さんとのパワーバランスも良くなかったし、お父さん親戚づきあいできそう(笑)といつも思ってしまっているので、イケコのミス配役かなと。ツェップスとしては普通に見ていたので、イケコの問題かなと思って書き留めておきました。この役者さんのせいじゃないなということは主張しておきたい派。


・ルドルフ
今回は古川君×芳雄トートという個人的には闇広コンプ回。
まず、皇后の務めのメロディラインの父と息子。このメロディがきて、フランツが皇帝として父として君臨してかつてのゾフィのような姿を見せているだけでも泣けるのに(そこ?)、古川ルドルフが熱量を増してきていてバチバチと火花を散らす姿が皇太子だなと。
けれども、終始一貫しているのは絶対にこの国では彼は生きることが出来ない。死を見据えた姿勢。なんです。ご本人のムック本ににも「死」そのものを意識して演じたい。と書かれていて、実にその通りだなと観劇後にムック本を読んだ私は共感しましたし、有言実行の姿が素晴らしいです。
他の闇広にないラストの抱擁やキスシーン後に鼻を付けたまま見つめ合うシーンがあって、このルドルフは小さなシシィというか死を愛し自由を求めた花總シシィの鏡のようでした。帝国も独立も極論できないだろうけれど、乗ってやろうじゃないか。という物事を斜めからみた深すぎる闇のもと、彼は自分の生きる世界を求めたのだと思いました。
ルドルフが死ぬ時も(好きだから)死なないで。というより、自分の生きる場所へ安らかに眠ってください。という気持ちで見送ったような気がします。
マイヤーリンクの踊りも綺麗。特に指先とアチチュードがすごく綺麗で、魅了されました。
それに勢いよく頭を撃ち抜いた後、幸せそうに見えてしまうから何も言えない。
また、花總シシィの血を紛うことなく継いでいた古川ルドルフですが、東宝版には「ごめんなさい、ルドルフ」「おやすみなさい」の2つはないので、
詳しくはルドルフまとめのこちら美形と金髪と軍服と。 - 白シャツを恋い慕うを参照してください。
一見冷酷に見られがちですが、花總シシィは故意に冷酷だったわけでも拒絶をしたわけでもなく自分の生きる道にルドルフがみえなかった。そんな印象があります。息子としては多分まだ愛があったと思います。にもかかわらず見過ごしてしまったからの後悔と懺悔。
蘭ちゃんは故意に拒絶するんです。無理だよと。でもルドルフ自体には愛があったような。微々たる違いですが故意か故意でないかは大きいのでは?
まあそれが、この世には生きる理由であり、最後の砦だったルドルフは死を選択しますが、死に逃げたというか頼ってしまったから昇天は出来ないのかなと思いました。
「ママも僕を見捨てるんだね」の絶望感にすべてがこもっていて、ためもすごくこの台詞が一番印象に残りました。
「死」を意識しているのに最後になって怯える姿を見れる背徳感!
シシィの求めるもののミニバージョンが古川、花總ペアが見せてくれたものでした。シシィの死を愛したがルドルフは死を憧憬したに変わっただけの印象。

古川くんのルドルフは2回でしたがこの闇広見たさにまだ足そうとしてしまっている自分が怖いです(笑)
また、歌は大我ルドルフの高音が苦しくなく出る点を推していますが、トートとの芝居とダンスは古川ルドルフが良くて…
城田くんの問題ではなく「闇が広がる」を歌いこなして血にしてきた芳雄トートとの組み合わせが二人とも生き生きしていました。
ルドルフが大好きな人間からすると、ベスト闇広はこの二択です。


・ルドルフどこなの
花總さんと古川君がつながっていると感じたからでしょうか、大号泣。
とにかく歌詞の刺さり方。
「この罪は消せない」「最後に安らぎを得たのね」に対して共感してしまって、ルドルフのバトンをうまく継いでくれたな花總シシィという感じでした。
蘭ちゃんはここでフランツを2回拒否しますが、花總シシィはルドルフと自分への罪の意識でいっぱいで見えていなくて、そんなフランツもものすごく悲しかった。

・夜のボート
(ちょいちょいルキが抜けているのはご愛嬌で)
一方通行の愛であることにも、「愛してる」の重さもありますが、やっと向き合えた二人の結末が「二つのゴール」なのだ。
とひしひしと感じて涙が止まらなくなりました。
蘭ちゃんの時は一方的にフランツのあの死にそうなまでの愛をどうか…(勿論このバージョンも良い、万里生くんのフランツのひたむきさが伝わるから)と思いましたが、再三書いてきたように生きているだけですれ違ってしまうことを表現してきた花總さんすごいです。

・悪夢
芳雄トートが最初は少し余裕なんですが、全力でフランツに訴えかけられることで余裕がなくなって様が本当に面白いです。
悪夢は芳雄くんと万里生くんでみたいところです。デスマッチじゃないですか!!

・愛のテーマ
一瞬の時を共有するお二人さながら、この物語を全力で伝え、一番理解していたルキーニ。
見届けてから死んでいく姿。「グランドアモーレ」と全身で打ち震える姿がそこにありました。
多分初めてルキーニに感動しました。育三郎くん自体が憑依して進化してきたのでは??
ルキーニが好きな方は花總さんのエリザベートを語るルキーニを見てしまうのが分かる気がしました。
この役が好きなら別物にうつりました。


こんな感じが10日の雑感です。
あと2回はいけるので2015黄泉の国を堪能していきたいです。