白シャツを恋い慕う

つれづれなるままに…おたく

一時代が終わるという話

私ねえ、癖はあるけど結局のところ紅ゆずるは嫌いになれない男役なんですよ。

 

そんな話をしたくて、退団して仕舞ったら出来なくなる!と思って重い腰をあげてこの記事を書いています。

めちゃくちゃ好きだよっていう人は見ないで頼むから。いいことだけ書くわけじゃないから。

 

紅ゆずるのことをちゃんと認識したのはちょっといつだか思い出せないのだけれど、あ、これがスターなんだ。勢いと華やかさが全然桁違いだと思ったのが、2009年コインブラ物語。脚本を理事長ががいて理事が主演というとんでも物語を私は多分3回ぐらい見た。事情は聞かないで欲しい。

で、盗賊団が客席から舞台に駆け上がっていくんですけれど、その中で一際目立っていた。客席降りというのを体感したのは初めてではなく、何なら同時期の再会の全ツで柚希さんとハイタッチをかました後だというのに、通っていく姿が桁違いだと思ったのだ。何でそう思ったのかはもう昔の事だからよく分からないけど。

舞台に上がっても歌が上手いとかでは全然なくて(失礼だけど事実)、それでも理事筆頭に月娘トップ内定の蒼乃、涼、夢乃、美弥、真風というそうそうたるメンバーの中で、あ、これがのぼっていく人だと漠然と思った。

念のため補足しておくけど、この公演の二番手格は涼さんで、ちゃんと相手役もいる役。夢乃さんもいて、その上での扱いだし、真風は新人公演主演を二回した後でなんだか学年のわりに出番も多かった。美弥さんをここに並べるのは間違いかなあと思いながら結果論で入れているんだけど、まだ新人公演主演をしていないけれど麗しい人だった。めちゃ好きになって手紙書いたけどそれはまた別の話。

とにかくすげえなあと思ったことは確かで、でもこの状態からトップが見えていたかというとそうじゃない。ノバボサノバの瀕死の役替りとか今見ても爆笑してしまう。この布陣でノバボサノバをよくやろうと思ったなと思う。オーシャンズ11はかっこよかった。2012年ダンサセレナータも結構好きで数回見ているんだけど、この公演終わったら本気で紅さんあげるのまじかあと思っていた。その頃には常時へろへろだった真風もかっこよくなり、礼真琴が現れていた。

 

舞台外のトークの感じは結構好きで、豪快なこと言っているのにすごい気を遣うようなところとか妙なアンバランス感が人として面白かった。陰から出てきた人が真ん中を取ってしまう物語はなかなか宝塚にはなくて、しかも直下の真風がすごく御曹司タイプだったからその対比も面白かったりしていた。

 

そんなこんなで気が付いたらトップになっていて(星は全然見ていなくて、最近だとガイズだけ)だれだれがなれるのにだれだれがなれないって話をし出したら間違いなく持ち出される人事だとは思うんだけど、エルアルコンの新人公演開始3分でせり下がる紅さん(研6)をスターにして真ん中に持ってくる物語は普通に面白いなと思った。めっちゃ外野からみてるからこんなことが言えるというのは分かっている。だってこのエントリーでは何だか理屈じゃ説明のつかないトップになれるものの姿を私は遠い昔にみたよとただ言いたいだけだから。

 

上田先生のエルベが見たかったので、エルベにはいった。フロリアンぐっとくるとかそんな話だけした覚えはあるんだけど、カールという人間の悲劇性に紅さんの人間性的な持ち味がかぶさっていたのはなんというか好き嫌いじゃない奇妙な感覚だった。男役としての声のつくり方メイクの仕方そんなのは全然好みじゃないんだけど、大げさすぎるし、歌めちゃくちゃだし、それでも妙に刺さるというか。刺さるといっても良かったと手放しでいえる感じではない、あまり宝塚にないはずの人間のリアル感がした。正塚芝居の男のリアル感とも違う、人としてのリアル。俺はピエロだみたいなことよく言わせたなと思った。

 

そのころ若手本を読んだ。若手たちに「チャンスがないと言って悩むことと、チャンスがあるのに生かしきれないと悩むことは、どっちも大変なこと。私は両方知っているから思うけれど、後者の方が贅沢で幸せだ」と話しているのがすごく印象的だった。この人をこの時代にトップにした意味がそれだけであると思った。次のページがチャンスを与えられ続けて生かしきれたのは組替え以降と皆さまお馴染み?朝夏さんだったからかもしれない。朝夏さんのことは今は大好き!でも88期、究極の対比芸にびっくりした。

 

対比芸と言えば、ザ優等生御曹司礼真琴が二番手なのも面白かった。普通はどこか似ているとか芸風だけが逆とかなんかどこかしらは似ていてどこかしらは似ていないものをトップと二番手に持ってくるんだと思うんだけど、もう全然何も共通点がなさそうな感じできた。紅さんの得意分野は一応芝居だと思っているんだけれど、礼真琴の不得意分野はあれは一応芝居なのかな?他が出来すぎるから。ということだと欠点を補い合うみたいな組み合わせなんだけど、欠点と補填がでかすぎ。私が回数重ねてみたい組でそれやられると受け取るのが大変だからやめてほしいとは思うんだけど、なんていうか有りではあった。単純に面白かった。

 

食聖はそれを見届けなければいけないという思いにかられて行った。なんというかオタクとしての謎の義務感が働いた。二週間前に追憶のバルセロナという王道のザ宝塚を見てきた私は思った。

「これは宝塚なのか?」と。

紅さんだからといって、紅さんのために今までにない感じがどんどん作られているのは良かった。伝統的な宝塚演目をやって欲しい人と新しい側面を見つけていく人は全然同じじゃなくていい。星組のお芝居は絶対他に比べて大味になっただろうけど、それは次代でなんとしようもある。まあ新人公演学年の男役の育ちは心配になるけどね!!!

サヨナラを感じさせないアニメーションみたいなつくりも良かった。笑い倒して明日もあるさっていう気持ちになるタイプの作品。カテゴライズとしてはヒーローものなのかな?

 

ショーで紅さんが目の前の銀橋を通るたびに、すごく香水の匂いがこちらまでした。席がよかったので、そんなところのこだわりが紅さんっぽいなあと思った。新しいタイプの作品をやる人の心が宝塚の伝統が好きなのだと思わせてくれることが私は何より紅さんの好きなところだったのかもしれない。重そうな衣裳を背負って歌う歌は相変わらず何を言っているかは分からなかったけれど、雰囲気と気力がそれを成り立たせていた。

 

そんな感じで紅ゆずるというジェンヌはとにかく奇妙な人だった。舞台での男役姿にときめくとかそういう話がないままにただただ生き様が面白い人だったと思う。