白シャツを恋い慕う

つれづれなるままに…おたく

蘭乃シシィの生き様

「ああ、窮屈だ。」

宝塚の客席よりも更に厳しい目で見る客席とそれに萎縮していく蘭ちゃん。

プレビューからずっと感じていた。

花組時代から培った、自組のトップ娘だったからという贔屓目で見ることさえも少し苦しかった。

(注釈すると花組はかなりの回数みているが、贔屓は蘭乃さんではない。)

 


確かに帝国劇場で歌えるレベルかというと違う。それははっきり言って配役の時点から分かっていた。どんなに頑張っても今回はきついと思った。

 

「もう守ってくれる組織はない、自分の事は自分の責任」という言葉の後に「やるしかないね、一緒に頑張りましょう」ってイケコの言葉がある。(蘭乃シアターガイドより)

 

本当にイケコの言う通りで、結果多くの方には批判されCDにもほとんど音源が残らなかった。

ただ彼女はそれを受けとめて、これから先認めてもらうために更に頑張ってくれるだろうとも思う。


でもイケコと共に今回頑張らなかったか?というとそれは違って、プレビューの時の宝塚と同じ発音は少なくとも8月20日のマチネにはなかった。

裏声も増やしたり地声勝負を少し減らしたのではないかな?役作りには地声が合うけれど、技術はすぐには追いつかない。

そしてこの日にみたら、少しだけ窮屈さがなくなった。

確実に成長していた。


 

蘭シシィの良さは共感しやすさ、分かりやすさだと思っている。

彼女のエリザベートは「生きる場所を求め彷徨う」というよりかは「自分のいる場所で思うよう生きたい」という印象。非常にエゴイスティックな人間の本質が現れ出ていて、とにかく面白い。

アンバランスで(歌も含めてだけど)いつ死を選ぶかの唐突感すら感じる。

「パパみたいに」の説得力も結構好きで、陽気で明るくて自由だ。

「パパみたいに」(リプライズ)は歌も落ち着いていて蘭シシィではかなり好きな楽曲の一つにもなった。どれだけ自由奔放な精神があっても、もう逃れられない切なさを感じる。

「娘の命をあなたは奪った。あなたを決して赦さないわ」とか「いやよ逃げないわ。諦めるには早い。生きてさえいれば自由になれるわ。出てってあなたには頼らないー」の刺さり方は正直久々に見たら迫力が増していてびっくりした。

反発するようなエリザベートって前には書いた気がするけれど、一つ一つの思いが非常に大きいのだなと思う。スパイスというか感情表現の豊かさはとても好きだ。

まさにエゴイストな生き様で、私だけにの歌詞のように「自由に生きるの」と彼女は最後まで思っていた。

上手くしたら王家で生きることすら出来たのではとも思わないし、まさに彼女がハプスブルクを滅ぼしていったのでゾフィ様とのバトルも当然だろうと思ってしまう。

そして最後の「泣いた笑ったくじけ求めた むなしい戦い敗れた日もある それでも私は命ゆだねる 私だけに」の魂の叫び。

二幕のドクトルやルドルフの死後も「死」について言及するけれど、トートを求めたのではなく「死」が「自由」ならば求めようって思考であるのはどのエリザベートもあるとして、蘭シシィは最後まで「生きてやろう」とした気がした。だから刺されてからの「解放」という言葉がふさわしいように思う。

本筋だと「エリザベート」は最後に「トート」という「自由をくれる場所」を求めて飛び込んでいくような気がするんだけれどね。

多分ストプレ好きの方や王道に飽きてきた方には面白く映ると勝手に思っている。

 


あともう一つ彼女は花總さんの大ファンだ。

書いている私も勿論好きだ。というか花總さんが嫌いとか、エゴイストじゃないから違うとか思ったことはないし、神々しいとすら思う。そして上手くは文章に出来ないけれど今は技術とかで比較したくはない。比較のためのWと言われたら何も言い返せないが、両者好きなのでここは非常にもどかしい。片方ずつ好きな方の感想を見ると、VSしていて心が痛い。


役者蘭乃はなが窮屈な檻に小鳥ちゃんのように閉じ込められてでも、奮闘している姿に正直この役が被る。そして憧れの役者さんとWで立つために懸命に葛藤する姿も役自体にいきているようにも思う。

用意された環境云々より、彼女の歩みを知っているからこそ自分の目標といきなり並べと言われた気持ちを考えたら、やはりすごい。

 

勿論結果に現れてない部分もあるので、少し甘いなと思う部分もあるけれど蘭シシィが嫌いではないし、むしろ芝居の魅力もあるということを伝えるために思い付くままに記事を書いてみた。



 

 

ただこの蘭シシィの邪道気味なプランは佐藤フランツの音程重視と尾上ルキーニの「紛い物」強調プランとはまるで相容れない。混ぜるな危険。なのでお二方を見るなら花總さんで是非とは思う。

佐藤フランツとは最初から2つのゴールだし(苦笑)芝居VS歌だからちぐはぐになるのは当たり前。

尾上ルキーニは若干まだ歌に課題もあるので爆弾を2つも抱えるきつさと「紛い物」を強調されてもそこにいるのは「エゴイストなエリザベート」なので消化不良になった。プランがちぐはぐ。

蘭芳田京育で見ることをお勧めしたいが多分あと25日のキャスト楽だけな気がする(笑)

 

あ、他キャストさんも合わせてセーブしているなんてお話もちらほら聞きますが(まあ共演者のせいにするのもどうかとは思うけれどね…)、他キャストさんの歌以外の生生しい芝居や真ん中を支える姿勢というのかな?は案外蘭シシィのが感じる。生きのいい芝居と場の支配力を発揮しているように見える。トートが真ん中にも見えるし、贔屓の役者がいない立場からするとパワーバランスの変化が非常に面白いです。(特に芳雄さん)

 

 

単体だから花組時代ほど追いかけられないとは思うけど、女優蘭乃はなもちょいちょい見に行こうと思う。よく頑張った!蘭ちゃんお疲れ様。